エッジコンピューティングとは
従来のクラウド・コンピューティング・モデルでは、コンピュートリソースとサービスは大規模データセンターで一元化されることが多く、組織全体のエンドユーザーがこれにアクセスします。このモデルにはコスト面でのメリットがあり、リソース共有機能が効率化されることが実証されています。しかし、新しい形態のエンドユーザー・エクスペリエンスと AI/ML を活用したインテリジェントなアプリケーションの使用により、物理デバイスやデータソースが実際に存在する場所の近く、つまりネットワークの「エッジ」にコンピュート能力を移行するという変化が生じています。
コンピューティング・サービスをエッジロケーションやエッジデバイスの近くに配置することで、ユーザーはより高速で信頼性の高いサービスを利用できるようになり、一方、企業は、データをより迅速に処理し、レイテンシーを気にせずにアプリケーションをサポートすることが可能になるというメリットを得られます。
エッジデバイスとは
エッジデバイスとは、IoT ゲートウェイ、産業用コントローラー、スマートディスプレイ、POS 端末、自動販売機、ロボット、ドローンなどの物理ハードウェアです。ネットワークの先端部分 (エッジ) にある離れた場所に設置されており、ネットワークの他の部分からの支援をほとんど必要とすることなくほぼリアルタイムでデータを収集、操作、処理するのに十分なメモリー、処理能力、およびコンピューティング・リソースを備えています。多くの場合、組織はアーキテクチャ全体で何千ものエッジデバイスを使用することがあり、そのすべてを一元化された場所から管理します。
エッジコンピューティングの主なユースケースとは
エッジコンピューティングは、ハイブリッド・コンピューティング・モデルを補完することができ、特に次の目的で使用できます。
- 人工知能/機械学習のライフサイクルのいくつかの段階 (データの収集、アプリケーションのプロダクションへのデプロイ、推論の作成、新しいデータの収集時の運用の監視など)
- 地理的地域間での運用の調整
- 自動運転車
- 拡張現実/仮想現実 (AR/VR)
- スマートシティ
エッジコンピューティングの主なメリットの 1 つは、リソースを最適化できることです。問題に対処する必要がある場合は、必要なサービスと機能のみをデプロイすればよいので、帯域幅の使用量とコストを削減できます。さらに、デバイスはコアデータセンターまたはクラウドへの接続を失った場合も引き続き動作し、リモートのレジリエンシー (回復力) を維持します。
IoT (モノのインターネット)
IoT (モノのインターネット) とは、電球などの一般的な家庭用品から、医療機器などの医療資源、そしてウェアラブル、スマートデバイス、さらにはスマートシティに至るまで、日常で使用する物理的なモノをインターネットに接続するプロセスのことです。
IoT デバイスが、必ずしもエッジデバイスだというわけではありません。しかし、これらのコネクテッドデバイスは、多くの組織のエッジ戦略に含まれます。エッジコンピューティングは、IoT 対応ネットワークのエッジにより多くのコンピュート能力をもたらし、IoT 対応デバイスとそれらのデバイスが接続されている中央の IT ネットワークの間の通信のレイテンシーを短縮します。
IoT は、単なるデータの送受信から始まりました。しかし、IoT アプリケーションとともにデータを送信、受信、分析するのは、エッジコンピューティングによって可能になった、より先進的なアプローチです。
モバイルテクノロジー
モバイル・コンピューティングで問題が生じると、多くの場合、レイテンシーの問題とサービス障害が発生します。エッジコンピューティングは、信号の伝播遅延を削減することにより、レイテンシーに対する厳しい制約を解決します。さらに、サービス障害をより小さなエリアやユーザー人口に制限したり、ネットワーク接続が断続的な場合でもサービスをある程度継続したりすることができます。
通信
ネットワークのモダナイズを進めるサービスプロバイダーは、ワークロードとサービスをコアネットワーク (データセンター内) からネットワークエッジ、つまり各拠点やセントラルオフィスの周辺に移動させています。サービス提供の最後の物理的インタフェースの 1 つであるセントラルオフィスの仮想化により、サービスプロバイダーはネットワークエッジでサービスをデプロイするという目標を達成できます。
IoT とエッジコンピューティングの連携が必要な理由
IoT では大量のデータが生成され、それを使用できるようにするためには処理と分析が必要です。エッジコンピューティングは、コンピューティング・サービスをエンドユーザーや IoT デバイスなどのデータソースの近くに配置します。
エッジコンピューティングは、IoT デバイスのデータおよびコンピューティングのニーズに対応する処理とストレージのローカルソースであり、IoT デバイスとそれらのデバイスが接続されている中央の IT ネットワークの間の通信の待ち時間を短縮します。
エッジコンピューティングを使用すると、接続している IoT デバイスが作成する大量のデータからメリットを得られます。分析アルゴリズムと機械学習モデルをエッジにデプロイすることで、データ処理をローカルで実行して、迅速な意思決定に使用できます。
IIoT とは
IIoT はインダストリアル IoT (モノのインターネット) のことで、製造、エネルギー、その他の産業の実地業務でコネクテッドデバイスを指す用語です。IIoT デバイスはエッジコンピューティングと一緒にデプロイされることが多々あります。IIoT は、自動化と自己監視の産業マシンへの導入を推進するために有効で、効率の向上に役立ちます。
マルチアクセス・エッジコンピューティングとは
マルチアクセス・エッジコンピューティング (MEC) は、ネットワークのエッジでクラウド・コンピューティング機能と IT サービス環境を提供する、ネットワーク・アーキテクチャの一種です。MEC の目標は、レイテンシーを削減し、極めて効率的なネットワーク運用とサービス提供を行い、カスタマーエクスペリエンスを向上させることです。
マルチアクセス・エッジコンピューティングは、大枠の定義でいえばクラウド・コンピューティングにおける進化形の 1 つであり、モビリティ、クラウド・テクノロジー、エッジコンピューティングを使用して、アプリケーションホストを一元化されたデータセンターからネットワークのエッジに移します。その結果、エンドユーザーに近いアプリケーションと、アプリケーションによって作成されたデータに近いコンピューティング・サービスが実現します。
5G とは
5G とは第 5 世代のモバイルネットワークのことで、帯域幅とレイテンシーのアップグレードにより、旧世代のネットワークでは不可能だったサービスが可能になります。5G ネットワークはギガビット速度、または最大 10 Gbps のデータ転送速度を実現します。5G サービスにより、レイテンシーが大幅に減少し、対応エリアを遠隔地まで拡大することも可能になります。
5G は、エッジコンピューティングのユースケースと見なすことができ、他のエッジユースケースも可能にします。エッジコンピューティングによって、5G ネットワークのパフォーマンスおよび低レイテンシーの要件を満たし、カスタマーエクスペリエンスを向上することができます。
通信業界におけるエッジコンピューティング
ネットワークをモダナイズし、新たな収益源を求める多くの通信事業者にとって、エッジコンピューティングの導入は最優先事項です。多くのサービスプロバイダーは、ワークロードとサービスをコアネットワーク (データセンター内) からネットワークエッジ、つまり各拠点やセントラルオフィスの周辺に移動させています。
通信事業者にとって、顧客がエッジネットワークで消費するアプリやサービスは収益創出の鍵となりますが、それが成功するか否かは、適切なエコシステムを構築し、ステークホルダーとテクノロジーパートナーの間で正しく調整を行えるかどうかにかかっています。
エッジコンピューティングのオープンソース基盤
完全なエッジコンピューティング・ソリューションは、単一のベンダーによって提供できるものではありません。ユーザーが、複数のコンポーネントからソリューションを組み立てる必要があります。オープンソース・プラットフォームは、プロプライエタリーなテクノロジースタックによるベンダーロックインに縛られることなく、広範なエコシステム全体の相互運用性を実現します。また、新しいエッジコンピューティングのユースケースをサポートするために、Red Hat は Kubernetes、OpenStack、Fedora IoT といったアップストリームのオープンソース・コミュニティに投資しています。